フランス音楽界の旗手パスカル・ロジェさんのピアノと、まさに旬でますます深まりを見せる、ヴァイオリンニスト小林美恵さんのデュオの夕べ。 お二人ともソリストなので、ソロと伴奏という間柄ではない。それぞれが一つの曲を共同して作り上げるというスリリングでダイナミックなコンサートだった。
プログラムは、フォーレの二つのヴァイオリンソナタと、「ロマンス」Op.28、それにラベルの「チガ―ヌ」とピアノのソロで「ソナチネ」。オールフランス物のプログラムだ。ロジェさんは、以前にも小林さんとトリオなどやっているのを聴いたことがあるが、今回は以前にもまして音色の艶と色彩感が感じられ、活き活きとした表情を見せてくれた。しかも我々が思っているフランス音楽という固定観とは違う、ダイナミズムのある音楽を聴かせてくれた。一方小林さんは、そのテクニックと音楽性も世界レベルの技量を示す、きっての名手。音色への変化を巧みに操りながら、うねるような音楽世界を表出していて、起伏に富んだコンサートとなった。特にラベルはご本人も言っていたように、よくはまっていて、「チガーヌ」は劇的な舞台を演じるかのような音楽。聴くものを圧倒する小林さんの独壇場の世界。聴くだけでなく、見ても迫力の表現世界だ。
一方フォーレは、いろいろな要素が含み込まれていて、弾く人によってその世界は変わる。そこに混濁色の色合いと深みがあるのだと思うが、深みと陰を小林さんが表現したとすれば、ロジェさんはすっぱりと割り切った演奏していたように感じた。勿論一つの要素だけで演奏は成り立たないが、全体的な傾きとしてそんな感じを受けた。ASOのような小さいスペースだからこそ、本当に身近で様々な音楽の色合いが感じられた演奏会だった。アンコールもフォーレで、「こもり歌」と「アンダンテ」。