今までのコンサートの記録

第127回コンサート
プレアデス・ストリング・クァルテット(松原勝也/鈴木理恵子/川崎和憲/山崎伸子) ベートーヴェン1
PLEADES STRING QUARTET(MATSUBARA
SUZUKI
KAWASAKI
YAMAZAKI)
07.3.18(日)
Sun.,Mar.18.2007
プログラム
L . V. ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 Op.18-1
: 弦楽四重奏曲 へ長調 Hess34(ピアノソナタOp.14-1編曲版)
: 弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 Op.59-3「ラズモフスキー第3番」
コンサート寸評

 今年よりこの「プレアデス」という名前を冠して、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏を行う。3年がかりで取り組む壮大なもので、その演奏ツアーのプレコンサートが今日のコンサートだ。メンバーは芸大で教鞭を執る、松原さん(Vn)、川崎さん(Vla)、山崎さん(Vc)に読売交響楽団コンサートマスターの鈴木さん(Vn)。以前から一緒に組んでいる間柄なので、できたての弦楽四重奏団ではない。そして、この取り組みはこの四重奏団の今後をとても興味深くワクワクさせる。とにかく名手揃いの彼らがどんな四重奏団に変貌していくか、その幕開けである。

 日本では、弦楽四重奏団を常に聴けるという環境は少ない。大舞台であるオペラや交響曲などは定期公演など、内外の演奏家によって盛んに行われる。しかし、クァルテットは、第一生命ホールの“クァルテット・ウエンズデイ”(プレアデスクァルテットもここで全曲演奏を行う。)と銘打つシリーズや地方のものなど、数えるほどで、そうそう多くない。また、クァルテットが常時活動できるホールというのも意外と少ない。コンサート興行的にも大きな利益を上げづらい。もともと弦楽四重奏曲自体サロン的要素が強い。だからそもそも大ホール向けではないのだ。しかし、その分だけ音楽が緻密であり、作曲家も刺繍や彫金のような精緻な腕をふるうことが多い。要するに作曲家の個性が如実に表れる。またある部分、日記のような内面性も強くなる。或いは音楽的実験であったりもする。だからプレアデスのメンバーがベートーヴェンの四重奏曲を全曲やりたいというのは、作曲家を“読む”という意味でもよくわかる。それにベートーヴェンは第9交響曲を書き上げた後も四重奏曲は最後まで書きつづけていたジャンル。まさにベートーヴェンの成長期から円熟期までの音楽をやるということになる。しかし興行的には大変!それでもという意志にこそ、この試みの本領と真価がありそう。だからとてもワクワクするのである。

 やや前置きが長くなったが、この日の演奏もそうしたワクワク感を満たしてくれた。曲は弦楽四重奏曲ヘ長調(ピアノソナタの編曲版)と、弦楽四重奏曲の1番と9番 (ラズモフスキー3番)の三曲。それぞれ完成年に違いがあるので、その作りの差がよくわかるものだった。とりわけ、第1番の四重奏曲には、ベートーヴェンが、今までの四重奏曲とは違う音楽世界を作りたいという、そういう意志を我々にひしひしと伝える演奏で圧倒された。四重奏曲としては中期にあたるラズモフスキーの3番は、きわめて難曲で、ベートーヴェンが四重奏の絡み合いの超絶技巧曲を書こうとしていたように思える。しかも音楽的には緻密である以上に感情的激昂や推進力を要求して。この頃ベートーヴェンは交響曲の5番を書いていた時期で、技術的にも音楽的にも油の乗っていた頃の作品だ。ここでもチェロの山崎さんは、その場に最もふさわしいと感じられる音を、本当に一つ一つ微妙に弾き分けての音楽作りをしていて、他のパートと会話するような演奏をしていた。ベートーヴェンの最晩年まで、どういう演奏を披露してくれるのか、“追っかけ”をしたいものだ。

 (2007.3.18松井孝夫)