今までのコンサートの記録

第126回コンサート
アナスタシア・チェボタリヨーワ ヴァイオリン リサイタル
ANASTASIA CHEBOTAREVA Violin Recital
ピアノ: ドミトリー・チェチェーリン
Piano: DMITII TETERIN
06.12.17(土)
Sat.,Dec.17.2006
プログラム
ショスタコーヴィッチ: 24の前奏曲より5曲
R..シュトラウス: ヴァイオリン ソナタ 変ホ長調 Op.18
モーツァルト: ヴァイオリン ソナタ 変ロ長調 K.378
メンデルスゾーン: 無言歌 Op.19-1 「甘い思い出」
メンデルスゾーン: シェークスピアの喜劇「真夏の夜の夢」 Op.61「スケル ツォ」(ハイフェッツ版)
シマノフスキ:「夜想曲とタランテラ」Op.28
パガニーニ: 「ラ・カンパネラ」(クライスラー版)
コンサート寸評

まさに弾くことに関しては天才!アートスペース・オーの第126回は、1994年のチャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門の最高位、チェボタリョーワさんのリサイタル。プログラム最後の、パガニーニの「ラ・カンパネラ」やアンコールの、バッツィー二の「妖精の踊り」にしても、すさまじい速さで汗をかくこともなく、涼しい顔で弾き終えた。バッツィニなどはたぶんパールマンよりも速い速度で弾いたのではないかという感じだった。最近の若いプレーヤーの傾向だが、まず音ははずさない。あぶないという所もない。また、ピアノのキーシンみたいにとてつもなくただ速いだけ、というわけでもなくある種のスタンダードなテンポで巧みにコントロールされている。

曲目も、ショスタコーヴィッチ(24の前奏曲より)、R・シュトラウス(Vnソナタop.18)、モーツァルト(Vnソナタ34番k.378)、(無言歌「甘い思い出」、スケルツォ「真夏の夜の夢」より)、シマノフスキー(夜想曲とタランテラop.28)、そしてパガニーニと、古典から近代まで、多種多様な曲を披瀝した。また、とても人懐っこくて気さく。やはり最近の若手のプレーヤーの多くの傾向ともいえるが、すごい才能をもっていてもえらぶらない。その意味でも無欠。しかし、私は迫ってくる音楽を感じなかった。人それぞれ好みもあるから、この完全無欠にケチをつける人がいると思ってくれればいいだけのことだが、不思議と体が熱くならなかった。あまりにうまく弾くからだろうか。あまりに完全だからだろうか。純粋なH2Oは味も素っ気もないと聞いたことがあるが、そうだからだろうか。確かにハイフェッツだって初めの頃、そういうことを言われていたような文章を読んだことがある。そういうことなのだろうか。私の耳がそちら(新しい時代の音楽表現)に追いついていないからなのだろうか。と、いろいろ考えさせられるコンサートになってしまった。以前、テーマをもって追いかけている作曲家はいますか、と聞いたことがある。その時は、そういうことはない、と言っていたが、今もそうだろうか。そこ等あたりに謎を解くものがあるようにも思う。

とにかく大変な才能であることは間違いなくて、弾くことに関しては最初から完成しているとも言える。が、さらに違う世界をみせて欲しいと思うのは、ねだりすぎだろうか。ピアノは学校時代からの馴染み、と言っていたが、ドミトリー・チェチェーリン。

(2006.12.17  松井孝夫)