今までのコンサートの記録

第114回コンサート
姜 建華 二胡(中国胡弓) リサイタル
JIANG JIAN-HUA Er-hu Recital
ピアノ: 有森直樹
チェロ: 三宅 進
Piano: NAOKI ARINORI Vc: SUSUMU MIYAKE
05.4.2(土)
Sat.,Apr.2.2005
プログラム
黄貽鈞: 花好月圓(トリオ)
喜多郎: シルクロード(トリオ)
劉天華: 空山鳥語 (二胡)
劉文金: 三門峡暢想曲(二胡&ピアノ)
渡辺俊幸: 大地の子のテーマ(トリオ)
ピアソラ: リベルタンゴ(トリオ)
バッハ=ブゾーニ: シャコンヌ(ピアノ)
加古 隆: 黄昏のワルツ (トリオ)
クライスラー: 中国の太鼓(二胡&ピアノ)
(日本の歌) : 荒城の月/虫の声(二胡&ピアノ)
ビゼー: カルメン・ファンタジー(トリオ)
コンサート寸評

アートスペース・オーの114回は、二胡の姜建華(ジャン・ジェンホア)さん。 彼女の演奏は熱い。ジャズライブのように聴衆と一体となって大きな感動の渦を創る。彼女の演奏はその場に居合わせた人しかわからない正にライブの醍醐味。共演者とのセッションであり、勿論音楽を通してであるが、彼女の大舞台でさえある。熱く大きな渦に我々聴衆は巻き込まれて体が熱くなっていく。

 最近のプレーヤーの中で、“天才とはこういうもの”を目の前で披露してくれる数少ない人といえる。少なくとも楽器を弾くという点においては、正に声で歌うように楽器を扱える。自由闊達というか、自在というか、体の一部である。そうなるとあとは彼女の歌というか音楽の問題となるが、その造りも大きく熱い。彼女も「気を入れる」といっていたが、音楽に生命力を与えることのできる演奏家といえる。

 共演は、ピアノの有森直樹さん、チェロの三宅進さん。姜さんの演奏がライブだというのは、相手とのかけ合いが、自分のことをやっていて相手とうまく噛み合っているというのではなく、相手の弾き方に対して常に「そうくるならこうよ」という対話によって作っていけるというものすごい能力を、我々の目の前でやすやすと披露してくれることによる。それは楽器自体が自家薬籠中のものとなって、しかも音楽の感性が自由であることが必要となる。

 今回ASOでは二回目の登場。あちこちのコンサートでも圧倒的な熱狂の演奏会を聴いているが、特に今回その才能がますます深化しているように感じた。「天才を見られる、聴ける」コンサートである。

 演奏後、ちょっと気になっていたことを尋ねてみた。それは、もともと伝統楽器は西洋音楽や平均率の楽器と音調が違うのではないかということである。それについては、もともとキーも違うそうで、音も合わせていくしかないということであった。ということは抜群の耳を持っているということになる。

 当日の曲目は、黄貽鈞の「花好月圓」、喜多郎の「シルクロード」、劉天華の「空山鳥語」、劉文金の「三門峡暢想曲」、渡辺俊幸の「大地の子のテーマ」、ピアソラの「リベルタンゴ」。後半が、バッハ=ブゾーニ版の「シャコンヌ」(ピアノソロ)、加古隆の「黄昏のワルツ」、クライスラーの「中国の太鼓」、日本の歌曲から、「荒城の月・七つの子・虫の声」、ビゼーの「カルメンファンタジー」。

 前半では、どれも唸らされたが、「大地の子」は泣けた。劉文金の曲はさすがに時代を画しただけのものを感じる。そしてとても興奮したのはピアソラ。彼女のピアソラは今まで聴いたものと違い非常に楽しめた。正にセッションの面白さを眼前で披露してくれたことによるからだろう。きっとピアソラにはこの自由さがないとピアソラにならないのだろう。なかなか出会えない好演だった。後半は正に歌の世界。心の奥ひだに染み入る強く熱い世界で幕を閉じた。カルメンは彼女がプリマであることを物語っていた。共演の有森さん、三宅さんがその熱い演奏を支えたのは勿論のことである。

(2005.4.2 松井孝夫)