今までのコンサートの記録

第108回コンサート
佐藤俊介ヴァイオリンリサイタル
ShUNSUKE SATO Violin Recital
ピアノ: 佐藤卓史
Piano: TAKASHI SATO
03.12.6(土)
Sat.,Dec.6.2003
プログラム
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ第34番 変口長調 k.378
オーリック: ヴァイオリン・ソナタ
J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調 BWVlOO3
ダンプロージオ: セレナード クライスラー: ウィーン奇想曲
パガニーニ: ラ・カンパネッラ
コンサート寸評

アートスペース・オーの108回は、弱冠19歳の佐藤俊介さんのバイオリンコンサート。曲目は、モーツァルトのヴァイオリンソナタ34番、オーリックのソナタ。後半が、バッハの無伴奏ソナタ2番、ダンプロージオのセレナード、クライスラーのウィーン奇想曲、パガニーニのラ・カンパネッラ。

佐藤さんの演奏は若々しく快演だったが、個人的に私としては、非常に面白い体験をしたコンサートの一つともなった。それは、次の日、つまり日をおかずに、イダ・ヘンデルのリサイタルを武蔵野文化会館で聴いた事だった。1928年ポーランド生まれの彼女は75歳。ヴァイオリン演奏家としては限界をとうに超えている年齢である。あまり比べる意味はないのだけれど、56年のキャリアと時間の隔たりのあるお二人を、続けて聴くことができて、とても面白かった。ヘンデルのほうの曲目も、バッハのシャコンヌ、ベートーベンのソナタ8番、コレッリのラ・フォリア、ショーソンの詩曲やヴィエニャフスキなどであった。

ここで、表現力とか、感性とかいう、個人的な技量と合わせて、成熟とか、運動能力や年齢など、いろいろ感じるところが多かった。結局音楽って何なんだという所に行き着き、最終的には人間的魅力というよりも、人間そのものの自己表現なのかという感じを強くした。

勿論演奏家は、音や楽器の操作をもって私たちに迫るのであるから、その得手であることは先ず第一。そしてその道に優れた人々の世界で、いかに表現をするかということになると、一方語り口の得手者であり、一方その曲に対する洞察力であるといえる。ともに優れて名手ということになるが、そこにキャリアという年輪が刻まれる。それは時間によって掴み取れるものもあるし、時間でも無理なものもある。そうなると、最終的に何がその人の個性たりうるかと言うと、結局その人の感性や人間性ということになるのだろうか。よく巨匠は舞台に立っていて、単にそれだけである部分人を感動させるものがある。

私たちはいつも音楽を白紙の状態で聴くことは難しい。初めて聴くものでも、初演でない限り、最初のインパクトは、時代によってある意味でならされてしまう。茶髪を今、異様に思う人のほうが少ないということを考えればすぐわかる。曲でも演奏でも過去のものの対比の中で享受している。しかし根源的な演奏にいたる極少数の演奏家がいることも事実で、いかにその自らのスタイルに対する説得力や、音楽に対する深みに至っているかを開示してくれる現場にぶち当たりたいという欲求が、音楽会に通わせる元となっている。ライブに対する強い思いである。

佐籐さんが今後どのような演奏家になっていかれるのか、56年後までは追いかけられないけれど、どう変貌していくかは、聴き手たる我々の大きな楽しみの一つだ。

(2002.12.6 松井孝夫)