今までのコンサートの記録

第107回コンサート
岡山潔/服部芳子&野原みどり 三重奏の夕べ
KIYOSHI OKAYAMA/YOSHIKO HATTORI & MIDORI NOHARA Trio
2003.11.1.(土)
Sat.,Nov.1.2003
プログラム
Bach : トリオソナタ ト長調 BWV.1003
Mozart: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ホ短調 K.304
Ravel: ソナチネ
Bartok:二つのヴァイオリンのための「二重奏曲集」より
Debussy: ヴァイオリンソナ
Martinu: 二つのヴァイオリンとピアノのためのソナチネ
コンサート寸評

ASO第107回コンサートは、とっても暖かいホームコンサートの夕べ。岡山さん・服部さんご夫妻は、ドイツでも今回のような小さいコンサートを沢山やっていらっしゃるということで、とてもムードのあるコンサートとなった。お客さんが近くにいるということを楽しんで弾くというのが、ヨーロッパでは延々と続いているということに、先ずもって「うらやましいなあ」という思いがする。コンサートが特別なことではなく「日常」というのは本当に羨ましい。我々もようやくASOで、叶うようになってきたと思うと、このアートスペースは本当にあり難いと感謝。

当日の献立は、バッハのトリオソナタ ト長調BWV1039、モーツァルトのピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調K.304、ドビュッシーのヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調。後半が、ラベルのソナチネ(ピアノ独奏)、バルトークの44のヴァイオリン二重奏曲から13曲、マルティヌーの2つのヴァイオリンとピアノのためのソナチネ。

前半は、時代を追って色合いが異なる曲目選定。特に小さいスペースで語るように演奏するには打ってつけ。モーツァルトのこの小品は二楽章しかないが、内容はとても重い。この作品はパリで書かれている。そしてこの時期に、モーツァルトの母親がパリで客死している。つまりモーツァルトは見とっているのである。そして母親が亡くなった時点で、父親に宛てて、病気だがまだ希望は捨てていないと手紙を書く。その後何度か手紙のやり取りをして、父親に心の準備の時間をとって、神のご意志で母親は天に召されたのだと、慰めの言葉を添えて、亡くなった事を伝えている。モーツァルトがまだ22歳の時である。本人だって動揺しているはずなのにと思う時、この天才のある一面―つまり受け手の心を見通せる確かな目というものが、あれだけの名曲を書かせたのだとも思う。このヴァイオリンソナタも、重く、つらく、そしてちょっと諦めもあって、更に慰めもある。岡山さんも、感情移入しすぎては曲にならない。とても難しいんですよ、とお話くださった。

後半の白眉はバルトーク。こういう小品はなかなか普段では聴くチャンスがない。練習用の曲として書いたのかもしれないが、一流の手にかかると、もうはっきりとした作品の世界となって、表現を楽しむ曲になっている。「蚊の踊り」、「バグパイプ」、「ピチカート」、「悲しみ」、などなど。弾くのはそう難でなくても、難曲ということになる。後半の始めには、岡山さんからちょっとスピーチがあって、とてもリラックスしながら味わえる雰囲気も作っていらっしゃった。演奏家が感じていることや知っていること、聴き所を話すというのは、こういう時にはとても良い感じ。音楽で勝負というのが本筋というのもあるけれど、それはそれ、場面に応じて楽しめるのがいいと思う。

ピアノの野原さんは、この多彩なプログラムを見事に色分けして見せた。それぞれの世界を確実に組み立てて、しかも少しも意図的でなく極自然に。ラベルは圧巻。ソナチネで圧巻というのは変な表現だが、クリスタルな空間―純度の高い音楽の世界を表現していて圧倒された。かつての凄みの上に純度も具わって、今後ますます聴きたいピアニスト。是非またASOにもご登場願いたいもの。

(2003.11.1 松井孝夫)