今までのコンサートの記録

第148回コンサート
ベネヴィッツ・クァルテット
Bennewitz Quartet
2009年6月13日
プログラム

F.J.ハイドン: 弦楽四重奏曲 ニ長調 Op.76-5 Hob.III:79 「ラルゴ」(1797)
 1.AllegrettoAllegro 2.Largo cantabile e mesto 3.Menuetto Allegretto 4.Presto
F.P.シューベルト: 弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 D804, Op.29 (1824)「ロザムンデ」(Rosamunde)
 1.Allegro ma non troppo 2.Andante 3.Menuetto - Allegretto - Trio 4.Allegro moderato
B.スメタナ: 弦楽四重奏曲第1番ホ短調『わが生涯より』(1876)
 1.Allegro vivo appassionato 2.Allegro moderato 3.Largo sostenuto 4.Vivace
コンサート寸評
ASO第148回 「ベネヴィッツ・クァルテット」コンサート

 いいクァルテットだな、と感じた。そして若い彼らが、このメンバーで続くものなら、いろいろな曲をどう聴かせてくれるかとても楽しみ、をいう感じを強く持った。
 国内外の室内楽のコンクールで、あいついで優勝をさらっている、チェコの新進のクァルテット。その腕前を披露してくれた。

 曲は、ハイドンの弦楽四重奏曲ニ長調「ラルゴ」、シューベルトの弦楽四重奏曲第13番イ短調「ロザムンデ」、休憩を挟んで、スメタナの弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」。
 まず、近年の若手演奏家の全般的な特徴でもあるが、技術的な問題点はほとんどクリアしていて、十分にゆとりがある。そして彼らの個性としては、曲を十分にこなした上で曲に臨んでいるということが、ひと目というか、一聴で分かる合奏態度。かなりのトレーニングを積んでいることと、そのセンスの良さがあげられる。全体としては、このクァルテットが、どういう音楽をそれぞれの曲に組み立てていくかということに、まだある種の若さを感じはする。しかし、初めから、むやみに、自己主張的な音楽を作り上げるのではなく、真面目に楽譜に寄り添い、緻密な音楽を組み立てようとしているところに、とても未来を感じ、センスの良さも感じた。

 音色は東欧のオーケストラなどでよくお目(耳)にかかる、やや翳りを持った、やわらかい音色なので、てっきり、東欧の楽器かと思って聴いていた。演奏会後のお話で、「使用楽器は何ですか?」という質問に、「安い木で出来たものです。」とか、「ヴァイオリン!」などと冗談を言っていたが、イタリアのオールド楽器など、様々だった。となるとやはり音は楽器だけのものではないのかもしれない。“演奏者の頭の中にある音色”というものがとても大事、ということでもあるのだろうか。また、ヴァイオリンの、ネメチェックさんに、特にハイドンやシューベルトで、ビブラートを使わないで演奏しているところがあるが、どういう意図ですか、と尋ねたところ、音を揺らさず、純粋な和音で表現した方が良いところもある、ということを仰っていた。大人の歌手が、巧みに声をコントロールして聴かせるものよりも、子供の自然な声に、もっと素直で美しいものがある場合もあり、シューベルトなども特にそう思うので、そうしている、ということだった。

 演奏の三曲は、どれもかなり緻密な演奏で、素直に音楽が聴けた。今後としては、何で(作曲家)、何を(曲)、どう聴かせてくれるのか、ひとつのクァルテットとしての存在(楽団の個性)を模索していくことになるのだろう。
こういうカルテットはずっと聴いていたいし、どう変わっていくのかも見守りたいという感じをとても強く持つ。どんな音楽世界を拓き、聴かせてくれるのか、とても楽しみ。

 アンコールは「いい日旅立ち」のクァルテット編曲版。オーナーの大橋さんが、日本の演歌と、ボヘミアンの憂愁の旋律は通じるものがあるのではないか、と解説されていたが、正鵠を射ていると思う。彼らも気持ちをこめて演奏していることが良く伝わってきた

(2009.6.13 松井孝夫)