このところ「ヴァイオリン・ワークス」シリーズのCDを出して、活躍の目覚しい堀米さんと、ピアノの野平さんのデュオコンサート。今回とても引かれたのはそのプログラム。シューベルトのヴァイオリンソナタイ長調D.574、イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタ5番ト長調、後半がバルトークの2つのヴァイオリンのための二重奏曲より35、14、15、16、28、44番、そして最後にエネスコのヴァイオリンソナタ3番イ短調「ルーマニア民族風」。普段お目にかからない選曲だ。とりわけエネスコは、すぐれたヴァイオリン奏者で作曲家。ルーマニアの音楽家で「ルーマニア狂詩曲」という民族的でロマンティックな曲が有名だが、それも含めてほとんどコンサートでお目にかかれない。またこの日のバルトークはもともとのプログラムになく、サプライズ。エネスコと同時代の民族的な色合いを持ったバルトークの小品を挟んで、プログラムに厚みをつけたかっこう。合わせるヴァイオリニスとは彼女のお弟子さんでもある、モルドバ出身のマルセル・アンドリエシさん。
堀米さんのヴァイオリンの技術は定評のあるところ、ベルギーのブリュッセル王立音楽院でも教鞭をとっている国際派、安定した腕前を披露してくれた。今回のコンサートは思ったとおり最後のエネスコがとても魅力的だった。旋律もとても人懐っこいし、構成もなかなか。またエネスコがヴァイオリンという道具に精通しているという意味でもとても刺激的。一般のプログラムのメインになって、ちっとも遜色ないのに演奏されないのは不思議だ。ある意味で演奏家は、堀米さんのように、新たなる名曲探しをして欲しいもの。確かに難度の高い作品だが、近年の超絶技巧曲というまでではない。難しいがサーカス的要素よりはロマンティックである。ルーマニアという国の音楽への理解がいる。そこらへんのバランスが、きっと一般の演奏家の気を引くところに行きにくいのかもしれない。しかし大変な名曲だし、とても面白い。いろいろな人がどう弾くか、聴き比べたいと思う曲である。
コンサートを料理にたとえると、表現・技術がシェフの腕前だとすると、提供する素材や料理のアイディアが献立ということになる。演奏技術の高い時代となって、なお、人の心を揺さぶるものは、腕前は勿論ではあるが、その素材と献立に対する深い見識と提供のアイディアだろうか。アンコールはフォーレの「子守唄」。