アートスペース・オーの116回は、堀米さんのヴァイオリンに有森直樹さんのピアノ、クラリネットの梅本貴子さんが加わった意欲的なコンサート。 曲はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ、第8番、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番、三善晃の無伴奏ヴァイオリンの為の鏡、バルトークのヴァイオリン・クラリネット・ピアノの為のコントラスツという面白いプログラム。
前半のベートーヴェンとバッハはあまり力まず弾いて、曲そのものの構成を前面に出していく演奏だった。ただベートーヴェンにしてもバッハにしても、もっとそのもの自体が持っているにおいを放って欲しいと感じたが、それは趣味の違いか。ピアノの有森さんはベートーヴェンでかなり、そのにおいを意識して演奏しようとしていたように思えたが、この日はあまりうまく乗らなかったような感じ。デュオの場合のかみ合わせというのは誠に難しいものがあると思う。どちらにしてもこの日の高い湿度が、とりわけ弦楽器に影響を与えたのは確か。
後半の三善とバルトークは、その意味でいうと、奏者がホールの状態に馴れて来たのと同時に、曲が前半のものほどには曲の要素として心地よい響きを要求しないので、聴きやすかった。三善の無伴奏については、堀米さんが曲の構成が“鏡”のごとく、反転して進むことを話してから演奏に入った。現代曲の場合、良し悪しは勿論あるが、ちょっとしたヒントは、聴く者にとって大きな意味を持つ。現代曲がそれだけ共通な世界より、個の世界に寄っているものが多いので、ある意味で演奏方法の一部と考えてもいいかもしれない。勿論いつでもそれが必要となるようでは本来は変な話で、作曲家は音で巧みに語れなければ意味がない。その点バルトークはさすがという気はする。勿論我々が既に聴き馴れている作曲家であることもあるけれど。このコントラスツは、弾き出しからすぐにあれっ?と思う。バルトークらしいのだが全く別の要素が入っている。ジャズである。クラリネットが入っているがその楽器ばかりにその特徴を負わせていないところがさすがであり面白い。とても奇妙な取り合わせにもかかわらず、全く変な感じも抱かせない。チャーミングで、面白く、推進力のある曲の構成で一気に最後までもって行ってしまう。今宵のコンサートのハイライトという感じ。当然この三つの楽器の取り合わせの曲は見当たらないということで、この曲の部分をアンコールにして幕を閉じた。